2018年1月6日土曜日

【舞台ist】vol.3 上村由紀子さん(後篇)

演劇ライター&ラジオDJになった「今」と「きっかけ」と「そのきっかけ」。



= INTERVIEW cont. =


選んだ理由は、「それしかなかった」


Dawn:文章を書いたり喋ったりすることは、もともと得意でしたか?

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歳くらいの時に、父の上司の方と新幹線で新横浜から名古屋までご一緒する機会があったんですね。で、その時、私、ずーっと喋っていたらしいんです……最後は知らない外国人の男の子と変なちゃんぽん英語で(笑)。今でもその方は父に「あのずーっと喋ってるお嬢さんは元気?」って聞いてくださるみたいで……我が家の伝説ですね(笑)。
書くことを本格的に始めたのは40歳を過ぎてからです。それまでもFMDJ時代にメルマガを出したり、一観客として観劇ブログを書いたりはしていましたが。プロとして書くことに関しては、演劇ライターという名刺を持って、一から現場で覚えたという感覚が強いです。



Dawn:どのようにプロの道へ入ったのでしょう?

最初は誰でもエントリーできるWeb媒体に応募しました。面接やテストを経て合格となったのですが、ライターとしての経験がゼロの中、取材交渉も撮影もすべて自分でやると聞いた時は驚きました(笑)。はじめのうちはリリースをもらう手順も分からないし、電話を冷たく切られることもあったりで、夜空を見上げてよく落ち込みましたよ(笑)。

Dawn
:まさにゼロからのスタートですね!

私、今から5年くらい前にある出来事があって、自宅から出られない、誰とも会えないというひきこもりの状態の中にいたんです。社会との糸を自分から断ち切っていた時期で、当時は自宅で舞台のDVDかアメドラを観ているか泣いているかって日々だったんですよ。そんな生活の中、なんとか以前の自分でいられたのが、SNSで好きなミュージカルの話を顔も知らない人と交わしている時だけで。で、ある日、思い立って舞台を観に行ったんです……青山円形劇場の『アラカルト』。気づくと私、客席で笑っていたんですね。その時、笑えるくらいならもう少し頑張ってみようと思いました。さらに、頑張るなら、自分をこちら側に戻してくれた舞台と客席とをつなぐ仕事がしたい……そうすることで自分もまた社会と繋がれるんじゃないかと……当時の唯一のでした。

Dawn
:「・・・世の中とつながる手段。」

そう、本当に無我夢中でしたね。今考えると何のスキルもキャリアもないのに無謀だったな、とは思います。でもそのくらい必死だったし、もうそれしかなかったんですよ。


台詞から原稿、そしてフリートークへ


Dawn:演劇ライターになる前のことをお聞きしてもいいですか?

中学生の時から舞台に出る人になりたいと思っていました。高校3年生の時に青年座の夜間部に通って、大学は演劇科。でも私は運動神経が皆無だから、ミュージカルなんて到底無理、とすぐに気付いて(笑)。それならばと新劇の道に進もうとしたのですが、これも挫折し、蜷川幸雄さんが演出するオールキャストオーディションの舞台に出させてもらったり、映像作品に出演したりしていました。

Dawn
:演劇少女から、女優に。その次は?

演劇をやっていると飲食関係等の長期のバイトが難しいんですよ、稽古で休みがちになるから。それで、イベントのMCをやったり、幕張メッセ等でナレーターコンパニオンとして車やPCの紹介なんかをしていました……ある意味黒歴史ですね(笑)。そんな時に当時在籍していた事務所でFMラジオレポーターのオーディションがあり「いま一番興味のあることは?」と聞かれて「台湾バナナとフィリピンバナナ、どっちが美味しいか」なんて答えていたらうっかり受かってしまって(笑)。キャンペーンカーに乗って各地でレポートを中継するんですが、現場の取材も全部自分。スタジオからラインが繋がったら最低5分は基本ソロで喋り切らないといけない。
でもこれが、ものすごい充実感で!演劇の台本に書かれた台詞とは違い、自分の言葉で喋ることがこんなにも楽しいのかと、新しいドアがばーっと開いた気がしました。初めてのレポートが終わってすぐに事務所へ電話して「これからはラジオしかやりたくないです!」ってマネージャーさんに宣言しました(笑)。

Dawn:この頃がラジオDJ としてのスタートだったんですね。

当時、私が喋っていたFM局ではレポーターとDJの間に見えない壁があって……DJをやりたいのなら、専門の事務所に入った方が良いとディレクターから言われ、喋りやナレーションを専門にする事務所のオーディションを受けたんです。会場では「ここにDr.Pepperがあるから、今この場にいる全員が飲みたくなるように3分で喋ってみて」と、缶を渡されました。私にしたら、それは1年半レポーターとしてやっていたことの延長だったので、楽しく弾丸フリートークを3分間やり倒せて(笑)。それで合格し、事務所の先輩についていろいろな現場で勉強させてもらううちに、bayfmでのレポーターを経て同局でDJとしてデビューする機会をいただきました。週に1回、朝の3時間半の番組を5年くらい担当したのかな。あとはテレビのナレーター等も経験しつつ、トークショーやイベントのMCも並行してやっていましたね。

"喋れる演劇ライター"として、次にできること


Dawn:これまでの人生を折れ線グラフにすると、ターニングポイントはどこになりますか?

まずは……舞台に出る人になりたいと思ったきっかけ……劇団四季『CATS』の日本初演を観た時。それから蜷川幸雄さんの舞台に出演させてもらった時とラジオというメディアに出会った時。さらにDJとして自分の番組を担当した時……そしてやっぱり5年前の絶望から這い上がって『マツコの知らない世界』にゲスト出演させていただいた時でしょうか。

Dawn
yukkoさんが次にやってみたいことって、どんなことですか?

映画コメンテーターやドラマの評論をやっている方がテレビ等で喋る機会って多いじゃないですか。でも演劇ライターが専門の媒体以外で語る機会は非常に少ないのが現状です。おこがましいかもしれませんが、自分にとっての武器があるとすれば、それは出る側として演劇に関わり、その後フリートークの現場を数多く踏んだことだと思いますので、その経験を活かして、テレビやラジオなど普段劇場に行く機会が少ない方が触れるメディアで舞台の情報発信を明るく、ファンキーに続けていきたいです。また逆に、コアなミュージカル&演劇ファンのためのイベントなども手掛けられたら良いですね。「劇場は人生を変える可能性を持った場所」……この言葉を胸に、ひとりでも多くの方に演劇や劇場に興味を持っていただければ幸せですし、それが自分が仕事をする大きな意味だと思っています。


= 終わりに =

ここ数年、上村由紀子さんの明るくキレイな声も記憶に残るキャラクターも知らないまま、文章だけでファンになった人はたくさんいます。でもその少し前、彼女はラジオの向こう側にいて、夜明けの金曜日に気持ちいい朝を運ぶ「声」だったのでした。人よりも得意技が多いように感じるyukkoさんですが、オーディションや自発的な電話からひとつひとつを掴み取ってきたご本人にしてみたら、「自分は何でも出来る!」なんて気持ちはないんだろうな。お茶を飲みながら自分がいかに「クズ」であるかを楽しそうに話すゆったりモードも私はとても好きなのですが、yukkoさんが何かにギュっと集中している時や、キリッと目を見て話してくれる時には、どこか特別なワクワクが漂います。飛行機が離陸する時の「科学なんだけど魔法」みたいな。気づくと何気ないひと言に笑ってて今日もがんばろうって思わせてくれる、その姿や声や文章にこれからもたくさん会えますように。

Dr.Pepperをみんなが飲みたくなるようにって、一体何を言ったんだろー?(笑)

素敵なお話をありがとうございました!


PHOTO:プリンス)



【舞台ist】vol.3 上村由紀子さん(前篇)

演劇ライター&ラジオDJになった「今」と「きっかけ」と「そのきっかけ」。



= INTERVIEW =

Dawn:出会ってからおよそ一年半が過ぎ、最近ではテレビやラジオ、街角のカルチャー誌に登場したりと、ますます多方面でお見かけするようになりました。特に印象に残っているお仕事はありますか?

やはり昨年3月に放送された『マツコの知らない世界』「劇場の世界」(TBS)で案内人を務めさせていただいたことですね。ゴールデンタイムのテレビ番組に演劇ライターが出演、しかもそれが自分だということに本人が1番驚いたかもしれません。

Dawn:放送後は「博多座」や「新橋演舞場」など、番組で紹介された劇場がSNSで話題になったりもしましたね。周りの反響はどうでしたか?

オンエアをご覧下さった演劇関係者や俳優さんから取材先でお声掛け頂いたりもしました。自分たちが愛し、プライドを持って関わっている世界がテレビで紹介された!と、ポジティブに受け取ってくださる方ばかりで、かなり気持ちが楽になりましたね。ロケ中からスタジオ収録まで「本当に大丈夫か」って、ずっと心臓がバクバクしていましたから。


「しっかりメイクして納期を守る!」


Dawn:取材へ行く時に気をつけていることってありますか?

それぞれの媒体の読者の年齢層や知識の深さによって、取材の際の視点や質問の方向性を変えることは強く意識しています。たとえば専門性が高いWebと、いろいろな分野から旬の俳優さんたちが登場する雑誌とでは同じプレイヤーにお話をうかがうにしても、ある程度内容は変えるといったように。また、特に舞台で活躍する俳優さんに対しては、安心してお話いただけるよう、以前のご出演作についての感想など邪魔にならない程度にお伝えするようにもしています。一斉取材日などは、違う媒体が立ち代り入って同じ質問を続けますので、対象者にいかにリラックスしてもらって他でしていない話に繋げられるかが、インタビュアー側のひとつのポイントだと思っています。

Dawn:こう言っては失礼ですが・・・なんだかキチンとしてる!

フリーランスだからこそ、納期を守る、時間を守る……これは最低限の鉄板かと。また、多くのインタビューは本番前の俳優さんが対象なので、自分が体調を崩している時は、行かなくて済む現場には行かないようにしています。取材現場では、予防のためのマスクも取りますよ。あと、個人的なこだわりとしては、ノーメイク禁止&気分が上がる服を着るなんていうのもありますね。

Dawn:今、フリーランスという言葉が出ました。大半の丸の内ワーカーとは違う働き方ですが、yukkoさんにとって「仕事のできる人」ってどんな人ですか?

メールにしろ、電話にしろ、レスポンスが早い方とは仕事の話もまとまりやすい気がします。今、仕事で一緒に動いているのがおもに20代や30代の方たちなのですが、皆さん本当にしっかりしていますよね……ミスがあればちゃんと真摯に対応してくれますし、連絡も早め。以前の自分だったら、特に20代の仕事仲間に対してここまで信頼感を持って接することはなかったとも思います。彼らと一緒に仕事をして、肩書きや年齢ではなく、責任感を持って自分の役割としっかり向き合っている人が仕事ができる人なのかな、と改めて感じています。



世界でたった一つの対話と向き合う


Dawn:演劇ライターのお仕事をしていて、一番楽しいのはどんな時ですか?

インタビュー取材はすべて楽しいです。中でもずっと観客として観てきた方に深いお話をうかがえた時や、思いもかけない魅力を引き出せた時はガッツポーズですね(笑)。自分ではお願いしなかっただろうな、と思うキャスティングで対象の方から素敵なトークが出た時も目からウロコがぽたぽた落ちます。

Dawn:心が震える瞬間は、やっぱり舞台を観ている時?

良い作品や好きな作品を観ている時はそうですね。記憶がないころから客席に座っているので、基本的には仕事人ではなく、一観客というモードで舞台を観ている時間の方が長いかも。インタビュー取材で「今この瞬間、この世界で私しか聞けない話を聞いているんだ!」と思えた時も心が震えますよ。インタビュー中はとにかく目の前のことに一生懸命なので、あとで音源を聞き返して改めてぷるぷる震えたり(笑)。

Dawn:たくさんの現場がある中で、魅力的だな って思える人はどんな人?

自分を良く見せようとしていない人、最終的に嘘がない人です。

Dawn:叶わないけれどインタビューしてみたいミュージカル界の方っていますか?

(即答で)森繁久彌さん!小さい頃に、帝国劇場で『屋根の上のヴァイオリン弾き』を観た時のテヴィエ役です。私にとって森繁さんの屋根ヴァはミュージカル観劇の原体験のひとつですし、帝劇のあのステージにソロで立つというのはどういう事なのかもぜひ聞いてみたいです。横浜から都内に引っ越して最初に住んだのが森繁さんの地元で、何度かカフェでお見かけしたこともあり、勝手に親近感を覚えています。




PHOTO:プリンス)